台風が来る前に、庭木の枝はバッサリ切っておいたほうがいい?

ご相談

出雲市にお住まいのМ様から、こんなご相談をいただきました。

「毎年この時期は台風が心配です。庭のシマトネリコとモッコクが、どちらも私の背丈の倍以上になりました。近所の方から『台風が来る前にバッサリ切っておいたほうがいい』と言われたのですが、慌てて切って木が弱らないか不安です。この時期に強く切って大丈夫でしょうか。切る以外にやっておくべきことはありますか」

樹木医の回答

ご心配はもっともです。結論から申し上げると、「台風前にバッサリ」は、多くの場合おすすめできません。風の被害を減らす効果より、木にかかる負担のほうが大きくなりやすいからです。

ただし「何もしなくていい」という意味ではありません。台風対策として本当に効くのは、枝を短くすることではなく、風を通す枝の抜き方と、根元と支柱の点検です。順にご説明します。

台風の強風で根元から倒れ、根鉢ごと持ち上がった街路樹
画像:LERK (Wikimedia Commons) / CC BY-SA 4.0

なぜ「バッサリ」が逆効果になりやすいのか

ひとつめは切り口です。太い枝ほど切り口は大きく、ふさがるまでに何年もかかります。その間は腐朽菌の入口になる。とくに高温多湿の夏の終わりは菌の活動が活発で、傷をつくるには最も不利な季節です。

ふたつめは樹勢です。今の葉は、冬を越して来春に芽を出すための養分を幹や根に蓄えている最中。ここで葉を大量に取り去ると、来年の芽吹きが鈍り、花木なら花数が減ります。

みっつめは翌年の樹形です。強く切られた木は徒長枝を大量に出します。まっすぐ勢いよく伸びた枝は柔軟性が乏しく付け根も弱いため、翌年はかえって折れやすい枝ばかりの木になってしまいます。

加えて、風が出はじめてからの脚立作業や高所の枝おろしは毎年けが人が出ています。作業をするなら、天気が崩れる前日までに終える。これは絶対条件だとお考えください。

倒れるかどうかは、枝より「根元」で決まる

被害の現場を見に行くと、幹の途中から折れているケースより、根ごと傾く「根返り」が目立ちます。上の写真のように、根鉢が土から持ち上がるようにして倒れるものです。勝負がついているのは枝先ではなく地面の下なのです。

台風の前に、まず次のポイントを確かめてください。

  • 幹の根元を押したとき、地面が一緒に浮き上がる感触がある
  • 地際や露出した根にキノコが出ている、樹皮がはがれて内部が黒ずんでいる
  • 植えてから二〜三年以内で、まだ根が張りきっていない
  • 駐車場や塀に囲まれ、根を張れる方向が片側しかない
  • 以前立てた支柱が朽ちている、縄が切れて用をなしていない

ひとつでも当てはまる木は、枝を切るより先に支えを見直すほうが確実です。とくに根株が腐っている木は、葉が青々としていても倒れます。判断には経験がいりますので、迷ったら見せていただくのが早いです。

切るなら「短くする」ではなく「風を抜く」

台風前に有効な切り方は、外側を刈り込んで丸く小さくすることではありません。枝を減らして樹冠の内側に風の通り道をつくる、間引き剪定・透かし剪定です。優先して落とすのは次のような枝です。

  • 枯れ枝、すでに裂けかけている枝(最初に飛ぶのはこれです)
  • 同じ方向に上下並んで伸びた平行枝のどちらか一方
  • こすれ合っている交差枝
  • 屋根や電線、隣家の敷地にかかっている枝

外側の葉を残したまま内側を抜くと、風が樹冠を吹き抜けて枝が受ける力が下がります。逆に外周だけを刈り込んで表面を密にすると、木全体が帆のようになり、かえって風を受けてしまいます。

なお、樹高そのものを下げたい場合は応急処置ではなく、樹種ごとの適期に計画的に行う作業です。シマトネリコやモッコクなどの常緑樹は、春の芽出し前や梅雨明け前が本来の適期になります。

支柱は「がっちり固定」しないのがコツ

よくある失敗が、ロープをぴんと張って幹が動かないよう縛ってしまうことです。木は揺れることで風の力を逃がしています。完全に固定すると衝撃が幹や根に直接かかり、かえって折れや根の断裂につながります。少したわみを残して結ぶのが正解です。

三〜四本を斜めに掛ける八つ掛け支柱は、家庭の庭木でも扱いやすい方法です。縄が当たる部分には杉皮やゴムを挟んでください。針金を直接巻くのは避けます。数年で幹が太って食い込み、そこから折れる原因になります。鉢植えは横に寝かせるか壁際に寄せるだけでも被害が減ります。

山陰で見落とされがちな「吹き返し」と潮風

松江市や米子市のように海が近い地域では、台風が日本海側へ抜けたあとの吹き返しの北風が曲者です。行きの風に耐えた木が、反対方向から吹かれて傾くことがあります。支柱は風上側だけでなく四方から支える意識を持ってください。

潮風を受けると、数日後に葉のふちから茶色く枯れ込むことがあります。塩分が葉から水を奪うためです。天気が回復したら早めに真水で葉の表裏を洗い流すと被害を軽くできます。数日置くと定着してしまうので、早さが大切です。

台風が過ぎたあとにやること

  • 裂けて垂れ下がった枝は放置せず、付け根で切り直して切り口を整える
  • 根元が浮いた木は土を戻して踏み固め、支柱で早めに固定する
  • 傾いた大木を無理に引き起こすと残った根を切ることがあるため、専門業者に相談する
  • 葉が茶色くなっても、枝を折って中が緑なら生きています。慌てて切らず春まで様子を見る

まとめ

台風対策で大事なのは、強く切ることではなく、風を抜き、足元を固めることです。枝を短くすれば安心という考えは、木を弱らせ、翌年より折れやすい姿にしてしまいます。今日からできるのは、枯れ枝を落とすこと、根元を押してぐらつきを確かめること、支柱と縄の状態を見ることの三つです。判断に迷う木や脚立に乗らないと届かない木は、無理をなさらないでください。

Takezo Farmでは、出雲市・松江市・米子市を中心に、庭木の剪定や支柱の設置、台風後の被害木の処置、樹木の健全度の診断まで承っております。「この木、倒れないだろうか」と気になる一本があれば、季節を問わずお気軽にご相談ください。