読者からのご相談
出雲市在住の40代女性の方から、こんなご相談をいただきました。
「玄関わきに植えたキンモクセイが、もう7年ほどになります。植えて3年目までは秋になると家じゅうに香りが届くほど咲いていたのに、ここ3年ほど、花がほとんど付きません。今年も9月が近づいてきましたが、枝を見てもつぼみらしいものが見当たらず、葉ばかり茂っています。木そのものは元気で、葉の色も濃く、枝はぐんぐん伸びています。虫食いも見当たりません。毎年6月から7月ごろ、伸びすぎた枝を刈り込みバサミで丸く整えているのですが、それがいけないのでしょうか。近所のお宅のキンモクセイは毎年しっかり咲いているので、余計に気になっています。」
樹木医の回答
結論から申し上げます。木が弱っているのではなく、咲く準備をした部分を、咲く直前に切り落としてしまっている可能性が非常に高い状態です。「葉は濃く元気、枝はよく伸びる、なのに花だけ来ない」という組み合わせは、キンモクセイの不開花としてはもっとも典型的なパターンで、原因は病害虫ではなく管理の暦にあります。順を追って説明します。
キンモクセイの花芽は、8月上旬にできる
多くの花木は、前の年の夏から秋に花芽を作り、冬を越して春に咲きます。ところがキンモクセイは事情がちがいます。その年の春に伸びた新しい枝に、8月上旬ごろ花芽を分化させ、そのまま50日ほどで9月下旬から10月中旬に開花するという、樹木としては非常に短いサイクルを持っています。
つまり今このタイミングで枝についている小さな粒は、来年のものではなく今年の秋に咲くつぼみです。花芽分化から開花までの期間が短いぶん、直前の管理や気象の影響をまともに受けやすい樹種だ、と考えてください。

6〜7月の刈り込みが、いちばんの原因
ご相談者が毎年されている「6月から7月の丸い刈り込み」。これがまさに、花芽ができる直前に、花芽をつけるはずの春枝の先端をそろえて落とす作業になっています。キンモクセイは枝先に花を付けるため、外周を球形に刈りそろえると、咲く場所そのものが全周にわたって消えてしまいます。木は健全ですから枝は元気に伸び直しますが、伸び直した枝が8月上旬に間に合わず、結果として「元気なのに咲かない木」ができあがります。
キンモクセイの剪定に適した時期は、花が終わった直後の10月下旬から11月ごろ、あるいは冬の休眠が明ける2月から3月ごろです。逆に、6月から8月は原則として刈り込まない時期だとお考えください。
日当たりも疑ってみる
キンモクセイは陽樹で、庭木のなかでも日光を欲しがる部類に入ります。植えた当初は日が当たっていても、7年もたてば周囲の常緑樹が育ち、カーポートや隣家の建て替えで午後の日が消えていることもあります。松江市や米子市でご相談を受ける際も、現地に立ってみると「植栽時とは日照条件が変わっていた」というケースは珍しくありません。
目安として、1日に半日程度は直射日光が当たること。日照が足りないと、枝が徒長して間延びし、常緑樹でありながら葉を落とすこともあります。
肥料は「効かせすぎ」にも注意
葉の色が濃く、枝の伸びが旺盛というご様子からは、窒素分がよく効いている状態が想像されます。窒素は枝葉を作る成分ですから、効きすぎると木は枝葉を優先し、花や実にまわす余力を後回しにします。芝生用の肥料が根元まで届いている、家庭菜園用の化成肥料をついでにまいている、といった心当たりがあれば、いちど控えてみてください。
キンモクセイに施肥をするなら、花が終わったあとのお礼肥と、冬の寒肥が基本です。幹の根元ではなく枝先の真下あたりを浅く掘り、埋め戻すと根に届きます。
猛暑の年は、咲く時期そのものがずれる
もうひとつ、近年ならではの要因があります。日本緑化工学会誌37巻1号(2011年)に掲載された中島敦司氏らの研究「夏季から秋季にかけての気温がキンモクセイの開花に及ぼす影響」では、気温を高くする加温処理を行うと、開花の開始が遅れ、開花期間が長引き、二度咲き・三度咲きの現象が起きることが報告されています。
残暑が長引いた年に「今年は金木犀が遅い」「二度咲いた」と話題になるのは、この性質によるものです。山陰でも9月の高温が続いた年は、10月に入ってようやく香り出すことがあります。9月中に咲かなくても、その時点ではまだ不開花と決めつけないのが正解です。
来年しっかり咲かせるための手順
- 今年はもう剪定しない。8月以降に切ると、残っている花芽まで落とすことになります。
- 10月中旬まで様子を見る。暑い年ほど開花が後ろにずれます。
- 剪定は花後(10月下旬〜11月)か、2〜3月に行う。
- 刈り込みバサミで球形にそろえるのではなく、混みあった枝を付け根から抜く「透かし剪定」に切り替える。枝先を残せば花の付く場所が残ります。
- 強く小さくしたい場合は、休眠期の2〜3月にまとめて行い、その年の花は諦めて樹形を作り直す。
- 日当たりを遮っている枝や工作物がないか確認する。
- 窒素過多の心当たりがあれば施肥を控え、与えるなら花後のお礼肥と冬の寒肥に絞る。
この流れに切り替えれば、多くの場合は翌年か翌々年には花が戻ってきます。ご相談者のお庭のように木自体が健全であれば、回復は早いはずです。
まとめ
キンモクセイが咲かない原因の多くは、病気でも寿命でもなく、剪定の時期にあります。その年の春枝に8月上旬に花芽を作り、すぐ秋に咲く——この短いサイクルさえ頭に入れておけば、「夏は切らない、切るのは花のあとか早春」という一本の物差しで判断できます。
とはいえ、日照の変化や土の状態、根の張り具合まで含めた見立ては、実際に木の前に立たないと分からない部分もあります。Takezo Farmでは、出雲市・松江市・米子市を中心とした山陰地方で、庭木の剪定や樹勢の診断、植栽の見直しから外構工事までご相談を承っております。「毎年咲かない」「木を小さくしたいが花も残したい」といったお悩みがありましたら、お気軽にお声がけください。庭の条件に合わせて、切る時期と切り方をご提案いたします。



