夏バテした庭木、回復させたいなら今すぐ肥料をあげるべき?

猛暑が続いた今年の夏。葉が茶色く縮れた庭木を見て、「栄養が足りていないのでは」と肥料袋に手を伸ばしたくなる方は少なくありません。しかし夏の終わりの施肥は、タイミングと中身を間違えると逆効果になります。今回は山陰地方のお客様からのご相談に、樹木医の立場からお答えします。

ご相談:夏に傷んだ庭木に、今すぐ肥料をあげたいのですが

松江市・K様(60代)からのご相談

庭にサルスベリとイロハモミジを植えて八年目になります。今年の夏はとにかく暑くて、モミジのほうは八月に入ったころから葉のふちが茶色く枯れ込んで、パリパリになってしまいました。サルスベリは花こそ咲きましたが、去年より花つきが寂しい気がします。

「夏に消耗しているので肥料を」とすすめられ、速効性の化成肥料を買ってきました。ただ、以前ツツジに肥料をやりすぎて枯らしたことがあり、踏み切れずにいます。今の時期、株元にまいてしまってよいものでしょうか。それとも秋まで待つべきですか。

樹木医からの回答

その葉の傷み、じつは「栄養不足」ではありません

まず押さえていただきたいのは、夏に葉のふちが枯れ込む症状の多くは、肥料不足が原因ではないという点です。強い日射と高温のもとでは、葉から出ていく水分に根からの吸い上げが追いつかず、いちばん遠い葉のふちから乾いていきます。イロハモミジは本来、日差しがやわらぎ湿り気のある谷筋のような場所を好む樹種です。住宅地の西日を受ける庭では、この症状が出やすい木の代表格といえます。

つまり、これは「水と暑さのトラブル」であって、「栄養のトラブル」ではありません。原因が違うところに肥料を足しても、症状は改善しません。

夏に花を咲かせたサルスベリの木の全景
画像:Juan Carlos Fonseca Mata (Wikimedia Commons) / CC BY-SA 4.0

弱った根に速効性肥料は、追い打ちになります

K様が以前ツツジを枯らされた経験は、まさに核心を突いています。肥料は土の中で溶けて濃度を持ちます。この濃度が土壌の水分より高くなると、根は水を吸えなくなるどころか、逆に根の中の水分を奪われてしまいます。いわゆる肥料焼け(濃度障害)です。

夏を越したばかりの木は、細根がすでに暑さと乾燥で傷んでいます。健康な木なら耐えられる量でも、弱った木には過剰になる。ここが見落とされがちなところです。

また、株元にまとめてまくやり方も避けてください。木が水と養分を吸うのは幹のすぐそばではなく、枝先の真下あたりに広がる細根です。株元では吸収されにくく、濃度だけが局所的に高くなります。

八月下旬から九月上旬は、肥料より「環境」を整える時期

では何をすればよいのか。この時期にいちばん効くのは、肥料ではなく傷んだ根が回復できる環境をつくることです。

  • 水やりは回数より一回の量:土の表面が乾いたら、根鉢全体が湿るまで時間をかけて与えます。毎日少量では浅い位置にしか根が張りません。
  • 株元をマルチングする:バークチップやワラを枝先の真下あたりまで敷くと、地温の上昇と乾燥がやわらぎます。
  • 傷んだ葉は無理にむしらない:見た目が悪くても、葉は残っている面積の分だけ光合成をしています。
  • 強い剪定はしない:枝を大きく減らすと切り口から病害を招きます。混み合った枝を少し透かす程度に。

秋に肥料を入れるなら、種類と量を切り替えて

九月ごろに施す肥料は、造園の世界で秋肥(あきごえ)と呼ばれます。夏の消耗を補い、花芽を充実させ、冬の寒さに耐える体をつくるための施肥です。

ポイントは中身です。枝葉を伸ばす窒素分の多い肥料を秋遅くまで効かせると、冬までに固まりきらない若い枝が伸びます。この未熟な枝は寒さに弱く、日本海からの季節風と水分を多く含んだ重い雪にさらされる山陰の冬では、真っ先に傷みます。

ですから秋に入れるなら、リン酸やカリウムを多めに含む緩効性の肥料を、規定量より控えめに。しかも株元ではなく、枝先の真下に沿って浅く溝を切るか、数か所に穴を開けて置くようにします。K様の場合、モミジがまだ葉を傷めている状態であれば、九月の施肥は見送り、回復を優先されることをおすすめします。

本命は、落葉してからの寒肥

庭木の生育を大きく左右するのは、じつは十二月から二月の休眠期に施す寒肥(かんごえ)です。木が眠っている間にゆっくり分解される有機質肥料を仕込んでおくと、春の芽吹きに合わせて効き始めます。休眠期なので根を傷めるリスクも小さく、量も安心して入れられます。

やり方は、枝先の真下を目安に木の周囲へ深さ二十〜三十センチほどの溝を掘り、肥料を入れて土を戻すのが基本です。円周に沿って数か所に分けても構いません。

庭木の施肥は「弱ったから足す」ものではなく、「元気なうちに翌年へ仕込む」ものです。そう考えていただくと、時期の判断を誤りません。

山陰の庭ならではの注意点

松江市周辺のお庭では、粘土質で水はけの悪い土壌に当たることがよくあります。こうした土は肥料成分が抜けにくく、雨が続けば根の周りに水がたまります。試しに穴を掘って水を注ぎ、なかなか引かないようなら、施肥は控えめにし、まず土壌の改良を先にお考えください。

まとめ

夏に傷んだ庭木を前にすると、何かしてあげたくなるものです。けれども今の時期に木がいちばん求めているのは、水と日陰と休息であって、濃い肥料ではありません。

  • 夏の葉の傷みは水分と高温が原因で、肥料では改善しない
  • 弱った根に速効性肥料は肥料焼けのリスクがある
  • 八月下旬〜九月上旬は、たっぷりの水やりとマルチングで根の回復を優先
  • 秋肥を入れるならリン酸・カリ主体の緩効性を控えめに、枝先の真下へ
  • 本命は十二月〜二月の寒肥。翌年の生育はここで決まる

Takezo Farmでは、出雲市・松江市・米子市を中心に、庭木の健康診断から土壌改良、剪定・植栽までを一貫してお手伝いしています。「肥料でよくなるのか、別の原因なのか」——迷われたときは、無理に何かを施す前に一度ご相談ください。お庭の土と木の状態を拝見したうえで、その木に本当に必要な手当てをご提案いたします。